ILC政府難しい判断/放射性物質広がる不安/トリチウム水厳重に管理2019.2.8河北新報
河北新報2019年2月8日(金曜日)
<ILC>政府難しい判断 来月7日に誘致の是非表明「期限」迫る
<ILC>「実験で放射性物質」候補地に広がる不安 問われる説明責任
<ILC>トリチウム水 厳重に管理 道園真一郎教授に聞く
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<ILC>政府難しい判断 来月7日に誘致の是非表明「期限」迫る
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201902/20190208_71015.html
岩手、宮城両県にまたがる北上山地が建設候補地の超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致に関する政府の検討が、大詰めの段階を迎えつつある。日本学術会議が誘致を支持しない姿勢を示した一方、推進側は「科学的意義は認められている」と主張する。研究者の国際組織は政府に対し、3月7日までに誘致の意向を表明するよう求める。政府は難しい判断を迫られる。
学術会議は昨年12月、文部科学省の審議依頼に「基礎科学分野の国際共同研究に日本が貢献する必要性は高い」と回答しつつ、「想定される科学的成果が巨額の経費負担に十分見合うとの認識には達しない」と結論付けた。
7355億~8033億円と試算された総事業費についても、国際経費分担の見通しが得られていないことを課題に挙げた。
政府に誘致を要請する研究者組織リニアコライダー国際推進委員会(LCB)は、費用負担も含め政府に計画主導を求める。
加速器計画の国際協力を進める国際将来加速器委員会(ICFA)の会合が3月7日に東京で開催されるのに合わせ、政府の判断を期待する。表明が遅れれば、欧州で2020年に始まる新しい素粒子物理学戦略で、ILCへの協力が主要議題に採用されない可能性があるという。
建設推進の超党派国会議員連盟の塩谷立幹事長(自民党)は「国際協議を始めないと費用分担の具体的な話は見えない。日本の科学技術振興のためにも挑戦が大事だ」と強調する。
自民党議員らは昨年9月、ILC誘致実現連絡協議会(代表・河村建夫元官房長官)を設立した。党の東日本大震災復興加速化本部などで構成する。ILCを国家プロジェクトと位置付け、科学技術予算の枠外での財源確保を政府や官邸に働き掛ける。
柴山昌彦文科相は1月25日の記者会見で「科学コミュニティーの理解や支持が必要だ」と議論継続の必要性を指摘。誘致の是非に関しては3月7日までの判断を排除せず「国際動向も注視しながら慎重に検討する」と述べた。
<ILC>「実験で放射性物質」候補地に広がる不安 問われる説明責任
https://www.kahoku.co.jp/special/spe1116/20190208_02.html
超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の建設候補地・北上山地を抱える岩手県一関市では、実験で放射性物質が生じることへの懸念が広がっている。推進派は「安全を確保できる」と理解を求めるが、住民の不安は払拭(ふっしょく)できていない。計画の意義や経済効果とともに、リスクへの説明責任も改めて問われている。
一関商工会議所が1月10日に開いたILCの現状説明会。出席者から「放射能に恐怖を覚える」との意見や質問が相次いだ。東大素粒子物理国際研究センターの山下了(さとる)特任教授は「安全はもちろん、安心してもらえる説明を尽くす」と繰り返した。
ILCは全長約20キロの直線トンネルを造り、加速させた電子と陽電子が正面衝突した際の反応を研究する。不安視されるのは、衝突実験後に生じる放射性物質のトリチウム=?=だ。
トリチウムは電子や陽電子を吸収するビームダンプ内の水に生じる。東北ILC準備室は昨年9月の地元説明会で「長期間、外に漏らさず管理する」と強調したが、出席者から「東京電力福島第1原発事故で汚染水の対応に苦慮している。ILCでも発生するとは」と驚きの声が漏れた。
他にもトンネルが将来、高レベル放射性廃棄物の最終処分場に転用されるという臆測がある。推進派は「ILCのトンネルは海抜約100メートルの山腹。最終処分は地下300メートルより深く埋設するというので適さない」と否定する。
リスクは昨年夏以降、知られるようになった。一関市民の有志らが昨年8月、計画を審議した日本学術会議に意見書を提出。市民団体「ILC誘致を考える会」も各地で学習会を重ねている。
考える会の原田徹郎共同代表(75)=一関市=は「行政や議会が住民にリスクを説明せず、利点ばかり強調して推進してきたのが問題。誘致は地域の理解が大前提だ」と訴える。
ILC計画がもたらす経済波及効果などへの期待は大きく、北海道、東北の7道県議会は昨年末までに誘致実現を求める決議を相次いで採択した。政府が国際交渉入りを判断する重要な局面が迫り、誘致運動は勢いづく。
こうした時期に足元で不安が表面化したことに、東北ILC推進協議会の西山英作事務局長は「地域にリスクを説明するきっかけを頂いた。納得してもらえるよう対応を尽くしたい」と強調する。
[トリチウム]水素の放射性同位体で三重水素とも呼ばれる。半減期は約12.3年で弱いベータ線を出す。宇宙からの放射線が空気中の窒素や酸素と反応して生じるほか、過去の核実験や原発排水でも大量に放出されている。国の排出基準は水中での濃度限界で1リットル当たり6万ベクレル。生体に与える影響は放射性セシウムの約1000分の1。
<ILC>トリチウム水 厳重に管理 道園真一郎教授に聞く
https://www.kahoku.co.jp/special/spe1116/20190208_01.html
国際リニアコライダー(ILC)を推進する高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)でILC研究開発プロジェクトリーダーを務める道園真一郎教授に、施設で生じる放射性物質と対策について聞いた。
(聞き手は東京支社・片山佐和子、報道部・高橋鉄男)
-ILCの実験でどんな放射性物質が生じるのか。
「計画では電子と陽電子を全長約20キロのトンネル内で衝突させ、使用後のビームを『ビームダンプ』という水を満たした設備で吸収する。この水の中にトリチウムが発生する。トリチウムは半減期が約12.3年と長く、水を厳重に管理する必要がある」
「ダンプは100トンの水を閉鎖循環させるので、運転期間中に約100兆ベクレルのトリチウムが積算される。不具合や水漏れが起きた場合に散逸を避けるため、ダンプ室は多重遮蔽(しゃへい)する構造にする。同様のダンプは米国の加速器施設で使用実績があり、事故や故障は起きていない」
-計画終了後の設備や水は、どう処理するのか。
「100トンの水は200年保管すればトリチウム濃度が排出基準値を下回り、ダンプ本体も低レベル放射性廃棄物の3段階評価で最も低い『L3』に該当する。いずれも、地元ではない埋設処分地などでの管理を想定している」
-建設候補地に地下水の放射化への懸念がある。
「ダンプ室は鉄やコンクリートで十分に遮蔽し、地下水の放射化を防ぐ。その他、電子や陽電子ビームが何らかの理由で曲がっても、これを察知してビームを止める装置を組む。定期的に地下水を検査して対策に万全を期したい」
-2013年に加速器実験施設「J-PARC」(茨城県東海村)で放射性物質漏れ事故が起きた。ILCの建設候補地にどう安全性を訴えるか。
「事故の教訓も踏まえ、施設の設計と運用を行う。建設候補地の住民に正確な安全対策情報を伝え、不安を解消してもらわないと計画は進められない。今後は建設候補地で直接説明する機会を増やしたい」
みちぞの・しんいちろう 東大大学院博士課程修了。1992年高エネルギー加速器研究機構入りし、2016年からILC研究開発プロジェクトリーダー。専門は加速器科学。54歳。鹿児島県出身。
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河北新報2019年2月7日(木曜日)
<ILC>誘致へ正念場推進意義訴え 盛岡で講演会
https://www.kahoku.co.jp/special/spe1116/20190207_01.html
岩手、宮城県境にまたがる北上山地が建設候補地の超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」に関する講演会が6日、盛岡市内であった。日本政府が建設に向けた国際交渉入りを意思表示する期限が3月7日に迫り、正念場を迎える中、関係者が計画推進の意義を訴えた。
東北ILC準備室長の鈴木厚人岩手県立大学長が誘致活動を報告。1月に経団連など経済3団体トップと面会して誘致の後押しを要請したことを明らかにし、「国家戦略として推進が必要だと応じてくれた。政府は前向きな意思表示をしてほしい」と述べた。
日本学術会議が昨年12月、「誘致を支持しない」と文部科学省に回答したことについては「回答は『現状から判断して』と書かれており、今後の国際協議を否定するものではない」との認識を示した。
岩手大と岩手県立大の客員教授を務める吉岡正和氏(加速器物理学)も「世界の加速器施設では放射線がん治療など最先端産業が次々と生まれている。地域経済効果は大きい」と講演した。岩手県ILC推進協議会が主催し、約250人が参加した。
<ILC>政府難しい判断 来月7日に誘致の是非表明「期限」迫る
<ILC>「実験で放射性物質」候補地に広がる不安 問われる説明責任
<ILC>トリチウム水 厳重に管理 道園真一郎教授に聞く
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<ILC>政府難しい判断 来月7日に誘致の是非表明「期限」迫る
https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201902/20190208_71015.html
岩手、宮城両県にまたがる北上山地が建設候補地の超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致に関する政府の検討が、大詰めの段階を迎えつつある。日本学術会議が誘致を支持しない姿勢を示した一方、推進側は「科学的意義は認められている」と主張する。研究者の国際組織は政府に対し、3月7日までに誘致の意向を表明するよう求める。政府は難しい判断を迫られる。
学術会議は昨年12月、文部科学省の審議依頼に「基礎科学分野の国際共同研究に日本が貢献する必要性は高い」と回答しつつ、「想定される科学的成果が巨額の経費負担に十分見合うとの認識には達しない」と結論付けた。
7355億~8033億円と試算された総事業費についても、国際経費分担の見通しが得られていないことを課題に挙げた。
政府に誘致を要請する研究者組織リニアコライダー国際推進委員会(LCB)は、費用負担も含め政府に計画主導を求める。
加速器計画の国際協力を進める国際将来加速器委員会(ICFA)の会合が3月7日に東京で開催されるのに合わせ、政府の判断を期待する。表明が遅れれば、欧州で2020年に始まる新しい素粒子物理学戦略で、ILCへの協力が主要議題に採用されない可能性があるという。
建設推進の超党派国会議員連盟の塩谷立幹事長(自民党)は「国際協議を始めないと費用分担の具体的な話は見えない。日本の科学技術振興のためにも挑戦が大事だ」と強調する。
自民党議員らは昨年9月、ILC誘致実現連絡協議会(代表・河村建夫元官房長官)を設立した。党の東日本大震災復興加速化本部などで構成する。ILCを国家プロジェクトと位置付け、科学技術予算の枠外での財源確保を政府や官邸に働き掛ける。
柴山昌彦文科相は1月25日の記者会見で「科学コミュニティーの理解や支持が必要だ」と議論継続の必要性を指摘。誘致の是非に関しては3月7日までの判断を排除せず「国際動向も注視しながら慎重に検討する」と述べた。
<ILC>「実験で放射性物質」候補地に広がる不安 問われる説明責任
https://www.kahoku.co.jp/special/spe1116/20190208_02.html
超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の建設候補地・北上山地を抱える岩手県一関市では、実験で放射性物質が生じることへの懸念が広がっている。推進派は「安全を確保できる」と理解を求めるが、住民の不安は払拭(ふっしょく)できていない。計画の意義や経済効果とともに、リスクへの説明責任も改めて問われている。
一関商工会議所が1月10日に開いたILCの現状説明会。出席者から「放射能に恐怖を覚える」との意見や質問が相次いだ。東大素粒子物理国際研究センターの山下了(さとる)特任教授は「安全はもちろん、安心してもらえる説明を尽くす」と繰り返した。
ILCは全長約20キロの直線トンネルを造り、加速させた電子と陽電子が正面衝突した際の反応を研究する。不安視されるのは、衝突実験後に生じる放射性物質のトリチウム=?=だ。
トリチウムは電子や陽電子を吸収するビームダンプ内の水に生じる。東北ILC準備室は昨年9月の地元説明会で「長期間、外に漏らさず管理する」と強調したが、出席者から「東京電力福島第1原発事故で汚染水の対応に苦慮している。ILCでも発生するとは」と驚きの声が漏れた。
他にもトンネルが将来、高レベル放射性廃棄物の最終処分場に転用されるという臆測がある。推進派は「ILCのトンネルは海抜約100メートルの山腹。最終処分は地下300メートルより深く埋設するというので適さない」と否定する。
リスクは昨年夏以降、知られるようになった。一関市民の有志らが昨年8月、計画を審議した日本学術会議に意見書を提出。市民団体「ILC誘致を考える会」も各地で学習会を重ねている。
考える会の原田徹郎共同代表(75)=一関市=は「行政や議会が住民にリスクを説明せず、利点ばかり強調して推進してきたのが問題。誘致は地域の理解が大前提だ」と訴える。
ILC計画がもたらす経済波及効果などへの期待は大きく、北海道、東北の7道県議会は昨年末までに誘致実現を求める決議を相次いで採択した。政府が国際交渉入りを判断する重要な局面が迫り、誘致運動は勢いづく。
こうした時期に足元で不安が表面化したことに、東北ILC推進協議会の西山英作事務局長は「地域にリスクを説明するきっかけを頂いた。納得してもらえるよう対応を尽くしたい」と強調する。
[トリチウム]水素の放射性同位体で三重水素とも呼ばれる。半減期は約12.3年で弱いベータ線を出す。宇宙からの放射線が空気中の窒素や酸素と反応して生じるほか、過去の核実験や原発排水でも大量に放出されている。国の排出基準は水中での濃度限界で1リットル当たり6万ベクレル。生体に与える影響は放射性セシウムの約1000分の1。
<ILC>トリチウム水 厳重に管理 道園真一郎教授に聞く
https://www.kahoku.co.jp/special/spe1116/20190208_01.html
国際リニアコライダー(ILC)を推進する高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)でILC研究開発プロジェクトリーダーを務める道園真一郎教授に、施設で生じる放射性物質と対策について聞いた。
(聞き手は東京支社・片山佐和子、報道部・高橋鉄男)
-ILCの実験でどんな放射性物質が生じるのか。
「計画では電子と陽電子を全長約20キロのトンネル内で衝突させ、使用後のビームを『ビームダンプ』という水を満たした設備で吸収する。この水の中にトリチウムが発生する。トリチウムは半減期が約12.3年と長く、水を厳重に管理する必要がある」
「ダンプは100トンの水を閉鎖循環させるので、運転期間中に約100兆ベクレルのトリチウムが積算される。不具合や水漏れが起きた場合に散逸を避けるため、ダンプ室は多重遮蔽(しゃへい)する構造にする。同様のダンプは米国の加速器施設で使用実績があり、事故や故障は起きていない」
-計画終了後の設備や水は、どう処理するのか。
「100トンの水は200年保管すればトリチウム濃度が排出基準値を下回り、ダンプ本体も低レベル放射性廃棄物の3段階評価で最も低い『L3』に該当する。いずれも、地元ではない埋設処分地などでの管理を想定している」
-建設候補地に地下水の放射化への懸念がある。
「ダンプ室は鉄やコンクリートで十分に遮蔽し、地下水の放射化を防ぐ。その他、電子や陽電子ビームが何らかの理由で曲がっても、これを察知してビームを止める装置を組む。定期的に地下水を検査して対策に万全を期したい」
-2013年に加速器実験施設「J-PARC」(茨城県東海村)で放射性物質漏れ事故が起きた。ILCの建設候補地にどう安全性を訴えるか。
「事故の教訓も踏まえ、施設の設計と運用を行う。建設候補地の住民に正確な安全対策情報を伝え、不安を解消してもらわないと計画は進められない。今後は建設候補地で直接説明する機会を増やしたい」
みちぞの・しんいちろう 東大大学院博士課程修了。1992年高エネルギー加速器研究機構入りし、2016年からILC研究開発プロジェクトリーダー。専門は加速器科学。54歳。鹿児島県出身。
こんな記事も
河北新報2019年2月7日(木曜日)
<ILC>誘致へ正念場推進意義訴え 盛岡で講演会
https://www.kahoku.co.jp/special/spe1116/20190207_01.html
岩手、宮城県境にまたがる北上山地が建設候補地の超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」に関する講演会が6日、盛岡市内であった。日本政府が建設に向けた国際交渉入りを意思表示する期限が3月7日に迫り、正念場を迎える中、関係者が計画推進の意義を訴えた。
東北ILC準備室長の鈴木厚人岩手県立大学長が誘致活動を報告。1月に経団連など経済3団体トップと面会して誘致の後押しを要請したことを明らかにし、「国家戦略として推進が必要だと応じてくれた。政府は前向きな意思表示をしてほしい」と述べた。
日本学術会議が昨年12月、「誘致を支持しない」と文部科学省に回答したことについては「回答は『現状から判断して』と書かれており、今後の国際協議を否定するものではない」との認識を示した。
岩手大と岩手県立大の客員教授を務める吉岡正和氏(加速器物理学)も「世界の加速器施設では放射線がん治療など最先端産業が次々と生まれている。地域経済効果は大きい」と講演した。岩手県ILC推進協議会が主催し、約250人が参加した。